2011年12月26日
江東区長 山 崎 孝 明 殿
東京都新宿区四谷1-7日本写真会館4F
マザーシップ司法書士法人内
ホームレス総合相談ネットワーク
代 表 弁護士 森 川 文 人
東京都北区赤羽2-62-3
担 当 司法書士 後 閑 一 博
電 話 03-3598-0444
要 望 書
要望の趣旨
1. 貴区は,江東区立竪川河川敷公園の一部(江東区亀戸一丁目27番地先,大島二丁目31番地先)において,そこの起居するホームレスの強制立ち退きを止めてください。
2. どうしても強制立ち退きが必要な場合には,①ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法に基づき,当事者、関係者との実効的で十分な協議及び交渉し,適切かつ十分な代替措置を講じること,②民事保全法に基づき,債権者(江東区)に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とすることを疎明して管轄裁判所に対して仮処分の申立をすること,など少なくとも法律に定められた手続きを遵守してください。
要望の理由
1. ホームレス総合相談ネットワーク(以下,「当ネットワーク」といいます。)は,ホームレスの方への法的支援を行う目的で平成15年に結成された団体であり,東京都と特別区が取り組んでいる緊急一時保護センターや自立支援センターでの法律相談や,路上でのホームレスの方への法律相談等を通してホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に取り組んでおります。
2. ところで,貴区は,江東区立竪川河川敷公園の一部(江東区亀戸一丁目27番地先,大島二丁目31番地先)において,そこに起居するホームレスに対して,①十分な話し合いもなく、②居宅保護の提供(生活保護法30条)等の適切な代替措置の提供もないまま,都市公園法を根拠として,住居である小屋の除却を命じていますが,この行為は,違法かつ不当であるので,以下のとおり警告します。
(1) ホームレス自立支援法、社会権規約違反
2002年8月に成立したホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(以下「特措法」という。)11条は、公共施設の管理者は、「当該施設をホームレスが起居の場所とすることにより適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、法令の規定に基づき、当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする」と定めています。そして、同法制定にあたっての衆議院厚生労働委員会の付帯決議は、上記11条の「必要な措置をとる場合においては、人権に関する国際約束の趣旨に十分に配慮すること」としています。
ここにいう「国際約束」とは、国際人権規約・社会権規約11条が定める強制立ち退きの禁止(占有の法的保障)を意味しています。
すなわち、わが国は、1979年に国際人権規約を批准しましたが、「適切な居住の権利」を保障する同社会権規約11条1項は、その内実として、①当事者、関係者との実効的で十分な協議及び交渉(適正手続の保障)と②適切かつ十分な代替措置を講じること(住居の提供等)なく強制的に立ち退かされないことを権利として保障しているものと解されているのです(占有の法的保障、強制立ち退きの禁止。社会権規約委員会、1997年の一般的意見7)。
(2) 民事保全法違反
仮に特措法上のホームレスの自立の支援等に関する施策との連携がなされていたとしても,小屋が撤去されてしまえば,対象者はそこに居住することはできないのであるから,代執行に先んじて立ち退きを求める仮処分の申立が必要不可欠です。
その場合,債務者(ホームレス)に対して立退きを命ずるような仮処分命令は、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに限り、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経た上で、発することができるものとされています(民事保全法第23条第2項、第4項)。
このことは,国連の経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解(2001年9月24日)」の以下の懸念に対して,
30.委員会は、強制立ち退き、とりわけ仮の住まいからのホームレスの強制立ち退き、及びウトロ地区において長い間住居を占有してきた人々の強制立ち退きに懸念を有する。この点に関し、委員会は、特に、仮処分命令発令手続においては、仮の立ち退き命令が、何ら理由を付すことなく、執行停止に服することもなく、発令されることとされており、このため、一般的性格を有する意見4及び7に確立された委員会のガイドラインに反して、あらゆる不服申し立ての権利は無意味なものとなり、事実上、仮の立ち退き命令が恒久的なものとなっていることから、このような略式の手続について懸念を有する。 |
政府は,09年12月「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約第16条及び第17条に基づく第3回報告」において,
(パラグラフ57)民事保全法における仮処分命令手続においては、命令にはその理由を付さなければならないとされている(民事保全法第16条)。また、債務者に対して立退きを命ずるような仮処分命令は、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに限り、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経た上で、発することができるものとされている(同法第23条第2項、第4項)。債務者は、仮処分命令に不服があれば、保全異議を裁判所に申し立てることができる(同法第26条)。裁判所は、この申立てに対して決定を行い、仮処分命令を取り消すときは、債務者の申立てにより、債権者に対し、原状回復を命ずることができる(同法第32条第1項、第33条)。債務者は、保全異議の申立てに対する裁判所の決定に不服があれば、保全抗告を裁判所に申し立てることができる(同法第41条第1項)。また、裁判所は、これらの債務者の保全異議や保全抗告の申立てに対する決定を行うまでの間、仮処分命令の執行停止を命ずることができる(同法第27条、第41条第4項)。さらに、仮処分命令は暫定的なものであり、最終的にはより厳格な手続である本案訴訟において、立退きの当否が裁判所によって判断されることになる。仮に、債権者が本案訴訟を提起しない場合には、裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出することを命じなければならず、債権者が同書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない(同法第37条第1項、第3項)。したがって、最終見解は、前提である法制度について、事実を誤認しているものである。 日本における仮処分命令発令手続を含む立退き命令については、一般的な性格を有する意見4及び7において委員会が明示したガイドラインに反するところはない。 |
と説明していることからも明らかな事実なので,仮処分の申立がなされていない本件除却命令はこれらの手続き違背が明確です。
以上の通り、貴区が今回行おうとしている締め出し行為は、上記法律及び人権規約に照らし違法であるので、速やかに中止するよう要望します。
以上