2011年10月31日
国土交通省
大臣 前 田 武 志 殿
国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所
所長 小 島 優 殿
国土交通省荒川下流河川事務所小名木川出張所
所長 塩 谷 浩 殿
東京都新宿区四谷1-7日本写真会館4F
マザーシップ司法書士法人内
ホームレス総合相談ネットワーク
代 表 弁護士 森 川 文 人
東京都北区赤羽2-62-3
担当司法書士 後 閑 一 博
電 話 03-3598-0444
要 望 書
要望の趣旨
1. 国は,荒川河川敷(堀切橋付近)において,そこの起居するホームレスの強制立ち退きを止めてください。
2. どうしても強制立ち退きが必要な場合には,①ホームレスに対しては,ア「当事者、関係者との実効的で十分な協議及び交渉(適正手続の保障)」とイ「適切かつ十分な代替措置を講じること(住居の提供等)」,及び「債権者(国)に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とする」ことを疎明して管轄裁判所の決定を得て,②小屋等の物件に対しては,相当履行期間を定め,代執行令書をもつて、代執行をなすべき時期、代執行のために派遣する執行責任者の氏名及び代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知するなど,ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法・民事保全法・行政代執行法等の法を遵守してください。
要望の理由
1. 当ホームレス総合相談ネットワークは,ホームレスの方への法的支援を行う目的で平成15年に結成された団体であり,東京都と特別区が取り組んでいる緊急一時保護センターや自立支援センターでの法律相談や路上でのホームレスの方への法律相談等を通してホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に取り組んでおります。
2. ところで,国は,荒川河川敷(堀切橋付近)において,工事を名目として,そこに起居するホームレスに対して,①十分な話し合いもなく、②居宅保護の提供(生活保護法30条)等の適切な代替措置の提供もなく,強制立ち退きを行っているとのことであり,この行為は,不当かつ違法であるので,以下のとおり警告します。
(1) ホームレス自立支援法、社会権規約違反
2002年8月に成立した「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」11条は、公共施設の管理者は、「当該施設をホームレスが起居の場所とすることにより適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、法令の規定に基づき、当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする」と定めています。そして、同法制定にあたっての衆議院厚生労働委員会の付帯決議は、上記11条の「必要な措置をとる場合においては、人権に関する国際約束の趣旨に十分に配慮すること」としています。
ここにいう「国際約束」とは、国際人権規約・社会権規約11条が定める強制立ち退きの禁止(占有の法的保障)を意味しています。
すなわち、わが国は、1979年に国際人権規約を批准しましたが、「適切な居住の権利」を保障する同社会権規約11条1項は、その内実として、①当事者、関係者との実効的で十分な協議及び交渉(適正手続の保障)と②適切かつ十分な代替措置を講じること(住居の提供等)なく強制的に立ち退かされないことを権利として保障しているものと解されているのです(占有の法的保障、強制立ち退きの禁止。社会権規約委員会、1997年の一般的意見7)。
(2) 民事保全法違反
債務者(ホームレス)に対して立退きを命ずるような仮処分命令は、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに限り、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経た上で、発することができるものとされています(同法第23条第2項、第4項)。
このことは,国連の経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の最終見解(2001年9月24日)」の以下の懸念に対して,
30.委員会は、強制立ち退き、とりわけ仮の住まいからのホームレスの強制立ち退き、及びウトロ地区において長い間住居を占有してきた人々の強制立ち退きに懸念を有する。この点に関し、委員会は、特に、仮処分命令発令手続においては、仮の立ち退き命令が、何ら理由を付すことなく、執行停止に服することもなく、発令されることとされており、このため、一般的性格を有する意見4及び7に確立された委員会のガイドラインに反して、あらゆる不服申し立ての権利は無意味なものとなり、事実上、仮の立ち退き命令が恒久的なものとなっていることから、このような略式の手続について懸念を有する。 |
政府は,09年12月「経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約第16条及び第17条に基づく第3回報告」において,
(パラグラフ57)民事保全法における仮処分命令手続においては、命令にはその理由を付さなければならないとされている(民事保全法第16条)。また、債務者に対して立退きを命ずるような仮処分命令は、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに限り、原則として口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経た上で、発することができるものとされている(同法第23条第2項、第4項)。債務者は、仮処分命令に不服があれば、保全異議を裁判所に申し立てることができる(同法第26条)。裁判所は、この申立てに対して決定を行い、仮処分命令を取り消すときは、債務者の申立てにより、債権者に対し、原状回復を命ずることができる(同法第32条第1項、第33条)。債務者は、保全異議の申立てに対する裁判所の決定に不服があれば、保全抗告を裁判所に申し立てることができる(同法第41条第1項)。また、裁判所は、これらの債務者の保全異議や保全抗告の申立てに対する決定を行うまでの間、仮処分命令の執行停止を命ずることができる(同法第27条、第41条第4項)。さらに、仮処分命令は暫定的なものであり、最終的にはより厳格な手続である本案訴訟において、立退きの当否が裁判所によって判断されることになる。仮に、債権者が本案訴訟を提起しない場合には、裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出することを命じなければならず、債権者が同書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない(同法第37条第1項、第3項)。したがって、最終見解は、前提である法制度について、事実を誤認しているものである。 日本における仮処分命令発令手続を含む立退き命令については、一般的な性格を有する意見4及び7において委員会が明示したガイドラインに反するところはない。 |
と説明していることからも,必要手続きであることは争いようのない事実であります。
(3) 行政代執行法違反
行政代執行法は,小屋等の除却など,法律に基き行政庁により命ぜられた行為について義務者がこれを履行しない場合であって,他の手段によつてその履行を確保することが困難であり,且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときに限り,厳格な手続きの下,小屋等の撤去を強行することができると法定されています。かかる手続きを経ることなく行われる小屋等の撤去は違法です。
3. 以上より,上記工事名目の締め出しは,そこに起居するホームレスの人々を強制的に立ち退かせようとするものあり,その前提として、当事者及びその支援者らと十分に話し合いを行い、敷金支給によって居宅を確保した上での居宅保護の開始(生活保護法30条、2003年7月31日付厚生労働省社会・援護局保護課長通知「ホームレスに対する生活保護の適用について」,同日付厚生労働省社会・援護局長通知「『生活保護法による保護の実施要領について』の一部改正について」)をはじめとする適切な代替措置を講じなければなりません。
貴庁が、十分な話し合いも適切な代替措置も講じることなく行おうとする本件排除は、自立支援法,民事保全法,行政代執行法等法令に抵触することは明らかであり,要望の趣旨記載のとおり法律の遵守を強く要望します。
4. そもそも,支援者の質問に対して,貴庁職員は,以下のとおり回答するなど,ホームレスの排除を目的とした工事であることを認めているなど,その悪性は看過しがたいものです。
■工事の目的について ・10年以上に渡って、地域住民から要望があがっている。 ・あれだけ(小屋が)密集していると、周りの住民は入っていけない。 ・ホームレスが危険だ、怖いという(住民の)声を聴いている。 ・ゴミなどがちらかっているのも、不快に思われている。 ■退去通告と排除の正当化について ・公有地である以上、勝手に家は建てられない。退去を求めるのは当然。 ・もし、これを許容したら、河川敷中、家だらけになってしまう。家だらけになる前に、出てってくださいということです。 ・みんなの土地に勝手に家を建てるのは法律上問題。 ・住むのであれば、堤防の内側で、洪水の危険がなく、野宿ではなく、所有権を持って住める場所に住んで下さい。 |
以上の通り、貴庁が今回行おうとしている締め出し行為は、上記法律及び人権規約に照らし違法であるので、速やかに中止するよう要望します。
以上
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